臆病狐と第六天魔王

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木曽川の向こう、彼方に見える山岳の頂、ぽつりと佇むそれが目的地と知った時、八尾祢は思わず頭上の耳を平らにしながら小さく肩を落とし、そっと息を吐いた。

「まだまだ、先は長いですね……」

主君である織田信長へ年賀の挨拶を述べるべく、尾張を出立したのは夜明け前のこと。目指すは稲葉山の山頂に聳える岐阜城である。
他の獣勇士たちと違い、戦に繰り出す事のない八尾祢が美濃を訪れたのはこれが初めての事だった。
従者たちの話によれば、あと半時もあれば稲葉山の麓に辿り着けるらしいが、そこからは馬を置いて徒歩で山登りをしなければならないという。
思わずついた小さな溜息が、白く凍えた水滴となって立ち上る。
しかし、これは獣勇士を代表しての任務である。途中で挫ける事は許されないのだと改めて決意を固めるべく、八尾祢は自身の唇をきゅっと結んで手にした手綱を引き寄せた。
再び、馬を駆る。川を越え、城下町を過り、流れゆく雲に逆らって前進を続けた。
彼方に見えていたはずの城が、徐々に近づく。同時に、胸が高鳴った。
頬が熱を持っているのも、興奮の為だろうか。先ほどまでは疲労感に苛まれていたというのに、目的地の景色が徐々に大きくなるにつれ、どうしてだか気分が高揚した。
これが旅の醍醐味というものだろうか。自身の足でこれほどの長旅を経験したことのなかった八尾祢にとって、それは未知の感覚であった。
疲弊していたはずの心が躍る。その後に控えていた山登りも、不思議と苦痛ではなかった。もちろん、傾斜を登る足には相当な負担が掛かっていたのだが、自然と歩みは進んでいく。
そして遂に頂へと到着した、その時。
草木を掻き分けた向こう側、地上一帯を見下ろすことの出来る見晴らしの良い高台に、その背中を見つけてしまった。
天鵞絨の外套を風に翻す姿は、まごうことなき第六天魔王。

「信長、様……?」

思わず八尾祢が呟くと、彼はゆっくりと振り向いた。

「待ち焦がれたぞ、狐の巫女」

まさか信長自身が城外で自分たちを出迎えるとは思いもよらず、唖然とするほか成す術はない。従者たちも言葉を失ったまま、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
だが、しかし。信長はそんな様子の一隊を気にする素振りもない。

「よく来たな、獣勇士よ」

大股で歩み寄って来た彼は、腹の底から響くような重低音で紡ぎながら、第六天魔王の異名に相応しくない気さくさと豪快さを孕んだ手つきで八尾祢の頭をくしゃりと撫でた。
存外にその掌は温かく、思わず頬が綻んでしまう。
旅路の果てに待っていた男の優しさにはにかみつつ、八尾祢は眼前の主君を見上げ、年始の挨拶をまず口にしたのであった。

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