第四話「大坂の陣」

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立葉がそこに足を踏み入れた時、茶々は秀頼の亡骸をその華奢な腕の中に抱いて、穏やかな微笑を浮かべていた。
母の膝上にてその身を横たえる秀頼の腹に深々と突き刺さっていたのは、一本の懐刀である。
鞘に繊細な細工が施されたそれは確か、秀吉が生前に茶々へと贈った品だった。

「よく来てくれましたね、立葉」

言いながら、茶々はその懐刀をゆっくりと、秀頼の腹から抜き取っていく。
瞬間、溢れる鮮血は、天守閣を焼く業火と同じく赤々と色づき、逃れようのない死の匂いで狭い籾蔵の中を染めた。
真田の軍勢が呑み込まれ、あげく炎を放たれた大坂城は既に落城したも同然であった。
そんな中、茶々が秀頼と共に天守閣にて腹を斬ろうとしていると聞き及び、立葉は慌てて燃え盛る城内を走り回ったのだが、その目論見は家臣によって阻まれた為に彼女たちはこの籾蔵へと逃げ込んだらしい。

「茶々様、どうして……」

今度こそ救ってみせる、と。
ないも同然の命を文字通り投げ打って立葉は秀頼たちの生存を望んでいたというのに――。

「さあ、今度は私を秀頼の元へ連れて行って」

茶々は秀頼の腹から抜き去った懐刀を、今度は立葉へと差し出しながら、残酷に命じた。

「嫌です、茶々様……。どうか、私と共に逃げて下さい……!」

蝶化身は、不死である。例えこの身が焼けようと、切り裂かれようと、決して黄泉に還る事は出来ないのだから盾にしてくれても構わない。
泣き叫びながら立葉はそう訴えたが、茶々は静かに首を横に振った後、秀頼の亡骸をその傍らに寝かせて立ち上がり、手にした懐刀をそっと、しかし有無を言わさぬ意志を持って立葉の指に握らせた。

「太閤殿下が望んだ泰平の世――。それを齎す為には、敗者が必要なのです。落城を目前とした今、その役割を担わなければならないのは豊臣の名を継いだ秀頼と私……。分かるでしょう、立葉」

凛とした瞳に真っすぐと見据えられ、立葉はとうとう首を横に振って拒絶を示す事さえ出来なくなっていた。
恐らくここで立葉が逃げ出したとしても、彼女は他の家臣に介錯を――否、自ら喉を掻き切って命を絶つのだろう。
朗らかで、それでいて意志の固いその姿は、彼女の母であるお市とよく似ていた。

「私たちの亡骸は、決して徳川には渡さないで。この城で秀頼と共に、静かに眠らせて欲しいの」
「……っ、はい……」

握り込んだ懐刀ごと震える立葉の指先を、茶々が温かな掌でそっと包み込む。
その体温すらお市と似ているようでどこか懐かしく、愛おしい。
だが、その熱を立葉はこれから、自らの手によって奪い去らなければならないのだ。

「さよなら、立葉。泰平の世が訪れたら……今度こそきっと、あなたは大切な人を穏やかに見送ることが出来るわ」

それが、彼女が遺した最期の言葉であった。

その後、立葉は徳川軍の手により一時的な拘束を受けたものの「蝶化身に処刑は無意味であり、その他拷問も罰にならない」という理由で処刑を免じられる代わり、松代藩への従事を命じられた。
元和八年より藩主を勤めた真田信之は病に伏せる事がなにかと多い体質であったにも関わらず、その後、齢九十三まで生き永らえたという。
長寿の秘訣は、彼の傍らにいつも控えていた侍女による献身の賜物だと人々は噂したが、実際のところはどうであったのか、当人たち以外、知る由もない。

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